現在行われているがん治療の主なものには次のものがあります。
・がんの薬物療法
・放射線療法
・温熱療法
・免疫療法
・代替療法(健康食品やサプリメント)
・造血幹細胞移植
今日から何回かにわたってそれぞれの要点を説明します。
◎ がんの薬物療法(その1)
1.薬物療法とは
薬物療法とは、薬を使う治療のことです。
がんの場合は、抗がん剤、ホルモン剤、免疫賦活剤(免疫力を
高める薬剤)等を使う化学療法が、これに相当します。
症状を和らげるためのいろいろな薬剤、鎮痛剤、制吐剤等も
薬物療法の1つです。
主に、抗がん剤、ホルモン剤を使う化学療法について説明します。
2.局所療法と全身療法
がんの治療は、「局所療法」と「全身療法」に分けることができます。
局所療法と全身療法の違いは、例えば田んぼの雑草(がん細胞)を
刈り取るか、薬をまくかの違いに似ています。
雑草が一部分であれば、正常な作物ごと刈り取ることも可能です
(局所療法ー手術など)。
しかし、田んぼのあちこちに雑草が生えてきた場合は、雑草を
すべて刈り取ることは不可能なので、田んぼ全体に薬をまき、
除草します(全身療法ー薬物療法)。
(1)局所療法
外科療法、放射線療法等があります。
外科療法は、がんを含めて正常細胞の一部を切り取って、がんを
なくしてしまう治療法ですから、原発巣(がんが最初にできた
ところ)にがんがとどまっている場合には完全に治すことができます。
放射線療法は、がんのあるところへ高エネルギーの放射線を照射
したり、あるいは小さな放射線源をがんの近くの体内に埋め込んで、
がんをなくす方法です。
放射線療法も同様に、原発巣にとどまっているがんの場合には
完全に治すことができる場合もあります。
基本的に、外科療法も放射線療法も治療目的で行う場合は、
がんが局所(原発巣)にとどまっている場合に適応となります。
それ以外にも、症状緩和の目的で使われる場合もあります。
例えば、骨転移などによって患者さんの疼痛が非常に強い場合には、
その部分への放射線照射によって痛みを緩和することができます。
局所への効果をねらって行う薬物療法もあります。例えば、がんが
必要とする栄養を送っている血管(栄養動脈)に、選択的に
抗がん剤を注入する「動注療法」も局所療法に当たります。
(2)全身療法
抗がん剤やホルモン剤等の薬剤を、静脈内注射や内服等の方法で
投与する薬物療法が主体になります。
がんには、抗がん剤によく反応するタイプのものと、そうでない
ものがあります。
白血病、睾丸腫瘍等のがんに対しては、薬物療法によって完全に
治すことが期待できます。
完全に治すことができない場合でも、がんの大きさを小さくする
ことで、延命効果や痛みなどの症状を和らげることが期待できます。
しかし、薬物療法で使われる抗がん剤の多くは副作用を伴うことが
多く、その使用には高度の専門知識が必要です。
3.がんの化学療法とは
化学療法とは、20世紀の初頭にドイツのエールリッヒ博士が
はじめて使った言葉です。
がんの化学療法は、化学物質(抗がん剤)を用いてがん細胞の
分裂を抑え、がん細胞を破壊する治療法です。
抗がん剤は、投与後血液中に入り、全身をめぐって体内のがん細胞
を攻撃し、破壊します。
どこにがん細胞があってもそれを壊滅させる力を持っているので、
全身的な効果があります。
がんは全身病と呼ばれるように、早期にはある部位に限定している
局所の病巣が、次第に全身に広がって(転移)、全身的な病気に
なります。
主ながんの治療法のうち、外科療法と放射線療法は局所的な
がんの治療には強力なのですが、放射線を全身に照射する
ことは、副作用が強すぎて不可能ですし、全身に散らばった
がん細胞のすべてを手術で取り出すことはできません。
全身病を治すということからすると、化学療法は全身くまなく
治療できる点で、より適した治療法と考えられます。
抗がん剤のそれぞれの長所を生かし、いくつかを組み合わせて
併用することで、手術の不可能な進行がんも治療できるように
なりました。
これからも新薬の開発と併せて、併用療法(抗がん剤を2剤以上
組み合わせて行う治療法)の研究が重要になると考えられます。
4.「抗がん剤」とは
がんに対する薬は現在約100種類近くあり、その中には飲み薬
もあれば、注射もあります。
また、その投与期間や作用機序もさまざまです。
がんに対する薬のタイプを2つに分類してみると、わかりやすい
かもしれません。
1つは、それ自身ががんを殺す能力を持ったもので、抗がん剤
が相当します。
一方、自分自身はがんを殺すことはできないけれども、がんを
殺すものを助ける機能を持つ薬で、免疫賦活剤と呼ばれるものが
それに当たります。
「薬」は、一般に「効果」と「薬物有害反応(副作用)」の
2つの作用があります。
通常、私たちが薬として使っているものは、効果のほうがずっと
強くて、薬物有害反応がほとんどないか、軽度です。
しかし、「抗がん剤」と聞いてすぐ頭に浮かぶのは、「副作用
ばかりが強くて全然効果がない」ということかもしれません。
例えば風邪薬は、大半の人に非常によく効いて薬物有害反応が
ほとんどありませんので、効果と薬物有害反応のバランスが
取れています。
しかし抗がん剤の場合は、効果と薬物有害反応が同じくらいと
いう場合もありますし、また効果よりも薬物有害反応のほうが
多い場合もあります。
したがって、普通の薬と違って非常に使いにくく、治療を受ける側
にとっては困った薬であるといえます。
抗がん剤の薬物有害反応が、他の薬に比べて非常に強いことは確かです。
悪心、嘔吐、脱毛、白血球減少、血小板減少、肝機能障害、
腎機能障害等の症状が現れます。
薬によって薬物有害反応の種類や程度は異なり、また個人差もあります。
これらの薬物有害反応を何とか軽くしようという努力、あるいは
一人一人の状態での薬物有害反応を予測し、軽く済ませるための
努力が行われていますが、完全になくすことはまだできていません。
なぜ、普通に使われる薬と抗がん剤とではそんなに違うのでしょうか。
薬は一般に、投与量を増やすと効果が出てきます。
もっともっと投与量を増やすと、今度は薬物有害反応が出てきます。
この、効果と薬物有害反応が出現する投与量の幅が非常に広いのが、
一般の薬です。
通常量の10倍くらい投与しても、それによって命を落とすことは
ありません。
これに対して抗がん剤は、効果を表す量と薬物有害反応を出す量が
ほぼ同じ、あるいは場合によっては、これが逆転している場合さえ
あります。
すなわち、投与量が少ないところですでに薬物有害反応が出て、
さらに投与すればやっと効果が出るといったような場合です。
したがって、抗がん剤で効果を得るためには、薬物有害反応を
避けられないことが多いのです。
「この抗がん剤はよく効く」と書いてあれば、おそらく「これで
がんが治る」と考えられるかもしれません。
しかし多くの場合、そういうことはありません。
抗がん剤で治療して、画像診断ではがんが非常に小さくなり、
よく効いたように感じたとしても、残念ながらまた大きくなって
くることがあります。
それでも見た目には著明に効いたようにみえますので、
「効いた」といわれるわけです。
例えば肺がんの効果判定では、CTなどによる画像上で、50%以上
の縮小を「効いた」と判断します。
もちろん、抗がん剤でがんが完全に治るということもありますが、
通常「抗がん剤が効く」という場合、「がんは治らないが寿命が
延びる」、あるいは「寿命は延びないけれども、がんが小さくなって
苦痛が軽減される」といった効果を表現しているのが現状です。
もちろんそれで満足しているわけではなく、がんが完全に治る
ことを目指しています。
しかし、難治性のがんの多くでは、効果よりも薬物有害反応の
目立つことが少なくありません。
薬物療法の説明はまだまだたくさんありますので続きは明日以降にします。