今日は、国立がん研究センターがん対策情報センター発表資料
から日本人のためのがん予防法の要点を説明します。
がんは、予防することができる病気です。
がんの原因やハイリスク集団が明らかにされ、具体的な予防法が
開発され、がん予防対策が効果的に実施されれば、がんの発生率
とそれに続く死亡率は確実に下がるでしょう。
これまでの研究から、がんの原因の多くはたばこや飲酒、食事
などの日常の生活習慣にかかわるものだとわかっています。
アメリカ人のがん死亡の原因では、喫煙 30%、食事 30%、
運動不足 5%、飲酒 3%の合計で全体の68%になりました。
これらのがん死亡は、生活習慣の見直しによって予防できたもの
と考えられます。
生活習慣や環境は国によって違い、がんの原因の割合も国によって
異なります。しかし、生活習慣の改善で多くのがんが予防できること
については、日本でも米国と同様です。
社会全体の対策として、一人一人の行動として、偏りのない科学的
根拠に基づくがん予防法の見極めが、重要な課題となります。
がん予防では、他のさまざまな条件とのバランスを考えて、
がんのリスクをできるだけ低く抑えることが目標になります。
これさえ守れば絶対にがんにならないという方法はありません。
がん予防の情報は、日々さまざまな場所から発信されています
ので、情報の質をよく見極める必要があります。
食品や栄養素はバランスよくとり続けることが前提であり、
これがいい、あれがいいという情報にいちいち振り回される
必要はありません。
生活習慣としての食習慣を改善することと、1つの食品を
そのときだけたくさん食べることは、全く違います。
また、通常手に入らないような特別な食品を、高いお金を出して
買う必要もありません。
がんをはじめとする生活習慣病の予防は、それほど簡単に劇的な
効果が期待できるというものではありません。
毎日食べるもの、毎日することに不健康な偏りがないかどうか
習慣を点検し、少しずつ改善し、慣らし、継続するという地道な
努力をストレスにならない範囲で工夫するというのが基本的な
考え方です。
例えば、いくら運動が良いといっても、ほとんど運動習慣が
ない人が、ある日からいきなり激しい運動をするのは危険です。
最終的な目標を決めて、毎週少しずつ時間や量を増やし、体と
相談しながら進めることです。
歩く、走るだけでなく、水泳やジム、球技等、幅広い候補の中から、
自分に合った楽しいと思える運動を見つけることが大事です。
また、買い物や通勤経路を運動量増加の方向で考えるなどの
工夫も大切です。
食事も同じことで、これがおいしいと思っているものをいきなり
ガラっと変えるのではなく、週単位、月単位の献立の中で回数や
量を少しずつ変えてみる、あるいは食べ方を工夫してみることが
必要でしょう。
禁煙外来でニコチン中毒を治療するのも、たばこをやめるため
には必要かもしれませんし、体重管理には栄養士の指導が必要に
なるかもしれません。
いずれにしても、まず生活習慣の点検のための材料として、
科学的根拠の確かな情報を集めて、各個人の現状と照らし
合わせることが大切です。
情報源として、学会や論文等による研究発表が引用されることが
ありますが、そのすべてが科学的な根拠に基づいているという
わけでもないのです。
科学的根拠が確かな発表でも、研究結果の都合の良い部分だけを
別の文脈の中で利用するというのは、よくある情報操作の手口です。
また、たとえ良心的に引用されているとしても、その情報を適用
するためにはさまざまな方法があること、またそれぞれの方法で、
科学的根拠としての意味合いに差があることを知る必要があります。
ヒトを対象にして行われる疫学研究では、研究対象や方法に
さまざまな偏りが入り込む余地が少ないほど、また、研究結果
における偶然性がより少なくなるように工夫された方法ほど、
信頼度が高いと位置づけられます。
また、同様のテーマに対して複数の信頼性の高い研究が報告されて
いて、その結果がいつも一致していれば、まず間違いないといえる
でしょう。
信頼のおける方法で行われた研究では、ある要因によって特定の
がんのリスクは何倍になるのかという具体的な結論が述べられ、
それが偶然の結果ではないという、統計学的な根拠も数値で
示されます。
主な疫学研究のタイプでは、信頼度の高い順に、無作為化比較試験、
コホート研究、症例対照研究となります。
最も理想的なのは、無作為割り付けによる介入研究の結果を待つ
ことです。
ある要因を無作為に割り付けることにより、偏りなどの要因が
均等になることを期待できます。そうすれば、その要因による
効果を純粋に検証することができます。
ただ、多くのボランティアの参加を必要とし、大変な費用と人手
のかかる方法ですので、すべての疫学研究には使えず、対象は
限られているのが現状です。
こうしたタイプの研究から、乳がんのリスクが高い欧米の女性で、
タモキシフェンという抗がん剤に乳がん予防効果があると同時に、
子宮体がんのリスクが上がることや、喫煙者などの肺がんリスク
が高い欧米の男性では、高用量のβ-カロテンに肺がん予防効果が
なく、かえってリスクが上がってしまうことなどが示されています。
コホート研究では、大規模な対象集団を設け、長期にわたって
観察をします。
まず、要因についてアンケート調査などで把握した後、がんの発生
を追跡調査するという手法で、偏りが入りにくく、比較的信頼性の
高い方法です。
しかしながら、ある要因とがん発生との間にみられた関連が本当は
第3の要因によるもので、浮かびあがった要因とがんの関連が、
見かけ上のものであった可能性を否定できないという限界が
あります。
コホート研究を根拠にがんの予防法を開発する場合には、動物や
試験管内での実験等により、そのメカニズムに対する裏づけを得て
いることが必要になります。
症例対照研究では、がん患者さんのグループを症例群、年齢や
性別などの条件をマッチさせたがんでない人のグループを対照群
に設定し、がんの発生要因を過去に遡って調べます。
コホート研究に比べて、結果が早くわかるという利点があります。
一方で、適切な対照の設定が難しく、また、要因について過去に
遡って調べなければいけないので、さまざまな偏りが入り込む
余地が多く、信頼性が必ずしも高くない方法です。
このタイプの研究結果が根拠として示された場合には、まだ最終的
な結論ではなく、問題提起がされた段階だととらえるべきでしょう。
これに対して、動物実験や細胞などを用いた試験管内実験は、
ある化学物質の毒性を確認する場合などには有用です。
安全性が最優先される予防原則では、危険のマージンを大きく
とって、ヒトへの毒性が疑わしいものは排除していかなくては
なりません。
そのため、動物や細胞レベルで毒性が確認されたら、ヒトでも
同じ結果になるかもしれないととらえる必要があります。
ヒトへの予防効果を確認する場合は、その利益が疑わしいものは
採用すべきではありません。
動物や細胞レベルで予防効果が確認されたとしても、ヒトで
同じ結果になるとは限らないととらえる必要があります。
ただし、このような実験室での研究は、無作為化比較試験の手法
を標準とし、再現性も確認されている場合が多いために、起こった
現象自体の信頼性は高いです。
ヒトを対象とする疫学研究で検討すべき課題を提示したり、疫学
研究の結果を解釈したりするためには、欠かすことのできない
科学的根拠の構成要素となります。
しかしながら、その根拠が実験室からのものだけであれば、
われわれ人間のがんリスクになるか、あるいは予防に有用で
あるかについて判断するには、慎重である必要があります。
普段から耳にする機会が多いのが、誰かの経験談や主観的な意見です。
このタイプの話題は具体的で説得力があるようですが、実際には
何の科学的根拠もありません。
今日は一般論が多くなってしまいましたので、明日は具体的な
予防法の12か条を説明したいと思います。