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(1)がんリスクの個人差

喫煙者の非喫煙者に対する肺がん罹患リスクは、日本人で
5倍程度である一方、欧米人では10倍以上であり、明らかな
人種差が認められます。

この原因については、環境因子側のたばこの種類や喫煙状況等
の差異に起因する可能性もありますが、たばこによる発がんリスク
を修飾する遺伝的な差異や、他の環境因子(栄養状態や他の
発がん物質の暴露状況等)の差異に基づくことが考えられます。

また、同じ日本人でも、40歳の男性が75歳になるまでにがんに
なる確率を試算すると、喫煙者では何らかのがんになる確率が
30%、肺がんになる確率が5%程度となります。

つまり、たばこを吸っていても95%の人は75歳までには肺がんには
ならないのです(ただし、何らかのがんになる確率は30%で、
非喫煙者の20%と比べて10%程度多くなります)。

そこで、肺がんになるか否かは偶然に決まるのか、それとも
何らかの要因により系統的に強められたり弱められたりする
のかが注目されます。

(2)栄養状態や、体質を決める遺伝子の関与

“たばこ”と“がん”との間には、たばこによる発がんリスクを
強めたり弱めたりする、いくつものポイントが存在すると予想
されます。

それぞれのポイントで、栄養状態や遺伝的な体質が重要な役割を
果たすと考えられています。

たばこ煙中にはベンツピレンなどの多環芳香族炭水化物、芳香族
アミン、ニトロソ化合物等、約60種類の発がん物質が存在します。

そうした発がん物質の多くは体内で活性型に変化したのち、
細胞内のDNAと共有結合をして、DNA付加体を形成することが
知られています。

このDNA付加体などによって、遺伝子の変異ががん遺伝子や
がん抑制遺伝子、DNA修復遺伝子等に何度も起こることで、
がんという病気が発生すると考えられています。

発がん物質が体内で活性化したり、逆に解毒、排出されたりと
いう代謝には、さまざまな酵素がかかわっています。

また、がん細胞を異物と認識して排除するのに、免疫がかかわって
いることも知られています。

酵素や免疫の働きが強かったり弱かったりするのには、一人一人に
固有の栄養状態や遺伝的な体質が関連していることが知られています。

(3)体質を決める遺伝子の例

たばこ煙中の発がん物質の1つ多環芳香族炭水化物は、
チトクロームP450(CYP450)に属する酵素によって活性化され、
グルタチオン S-トランスフェラーゼ GSTに属する酵素により
解毒されます。

それぞれの酵素をつくる遺伝子には、いくつかのタイプが
あることが知られていて、タイプによって活性の強さや解毒
の能力が異なります。

例えば、CYP1A1の酵素の活性が高くなるタイプの人やGSTM1の
活性がないタイプの人は、そうでない人に比べ、少量の喫煙でも
肺がんリスクが高くなるという報告があります。

(4)食事によるがん抑制効果を、体質を決める遺伝子別に喫煙状況によって検証

また、キャベツやブロッコリーなどのアブラナ科野菜に多く
含まれるイソチオシアネートという化学物質には、CYP450の
活性を抑え、GSTの活性を強めるという、たばこによる発がん
を抑制する方向の作用が知られています。

複数の疫学研究で、その摂取量が多い人で肺がんや大腸がん等
の予防効果が報告されています。

たばこによる発がん物質を解毒するGSTはイソチオシアネートの
排出も担当していますので、GSTが遺伝的に不活性のタイプでは、
イソチオシアネートの排出に時間がかかります。

そこで、GSTの遺伝子タイプ別、喫煙状況別に、イソチオシアネート
の摂取量による肺がんリスクを比べるという症例対照研究が
いくつか実施されています。

これまでで最も大規模な2005年の研究では、GSTM1不活性タイプ
の喫煙者グループで、イソチオシアネートの摂取量が高いほど
肺がんリスクが低くなったという報告があり、イソチオシアネート
摂取による肺がん予防効果が、遺伝的な体質によって変わる可能性
が示されています。

とはいえ、喫煙者がいくらアブラナ科野菜をたくさん食べたと
しても、禁煙による効果に遠く及ばないことは間違いありません。

(5)飲酒によるがんリスクにかかわる喫煙と、体質を決める遺伝子

ほかにも飲酒によるがん全体のリスクは、非喫煙者では高く
なりませんが、喫煙者では量が増えるにつれて高くなることが
観察されています。

これは、アルコールを代謝するために誘導された酵素が、たばこ
煙中の発がん物質を活性化し、相乗的なリスクの増加をもたらした
のではないかと考えられます。

さらに、アルコール代謝にかかわる酵素の遺伝子多型が知られて
いますが、そのタイプも喫煙と飲酒によるがんリスクに、何らかの
影響を及ぼしている可能性が考えられます。

(6)テーラー・メードの予防法の開発

このように、実際に喫煙による発がんリスクが、体質を決める
遺伝子タイプや栄養状態によって強められたり弱められたりする
ことがわかってきました。

飲酒による発がんリスクが喫煙者と非喫煙者で異なり、さらに
飲酒習慣は遺伝子タイプで決まる部分があります。

そういうことから、環境因子による発がんにもいくらか個人差が
あるのかもしれないと考えられます。

今後さらに研究が進めば一人一人の発がんリスクを、ゲノム情報
などを用いて評価し、そのリスクを低減させる生活習慣指導や
栄養処方などを行うという、いわゆるテーラー・メードの予防法
が現実味を帯びてくるでしょう。

その科学的根拠の集積には、まずゲノム情報を用いた疫学研究を
遂行できるような社会環境を整える必要があり、目下の課題と
なっています。

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小山 信弘

SEを2年前に定年し、今はのんびりとITコンサルタントとヘルスケアーカウンセラーをしています。毎日が休前日という贅沢な日々ですみません。

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